十年選手の初期衝動――ガストバーナーがオルタナ×歌謡メロで体現する幸福論とは(後編)

LINEで送る
Pocket

gab_a_photo十年選手の初期衝動
ガストバーナーがオルタナ×歌謡メロで体現する幸福論とは(後編)

L→R
加納 靖識(Gt)
辻斬りっちゃん(Ba)
デストロイはるきち(Vo/Gt)
16ビートはやお(Dr)

2020年3月に結成し、それからわずか半年で初作品『Happy』をリリースした、ex.みそっかす・デストロイはるきち率いる4人組ロックバンド、ガストバーナー。バンドの生い立ちとメンバーのキャラクターにフォーカスしたインタビュー前編を経て、後編ではメンバー全員インタビューとプロデューサー・マイケルTHEドリームのソロインタビューの2本立てで、バンドの精神性と『Happy』という作品について探っていく。バンド活動を開始して10年前後のキャリアを持つメンバー4人とプロデューサーは、いまどんな心境でバンド活動を行っているのだろうか。音楽の話は、自然と生き方の話になっていった。

取材・文 沖 さやこ

 

※インタビュー前編はこちらから
十年選手の初期衝動——ガストバーナーがオルタナ×歌謡メロで体現する幸福論とは(前編)

 

◆僕ら楽器隊が好き勝手にやっても、はるきちさんのボーカルがあればしっかり締まる

――ガストバーナーは個々の経験があるぶんスキルや安定感もあるんですけど、それなのにとにかくどの曲も危うさがエネルギッシュに迸っていて。

一同 あははは!

――ものすごいスピードで堂々と走ってるけど、今にもタイヤが取れそうなスポーツカーを見ているようというか。その過剰に突っ込んでいく感じが爽快だったんですよね。『Happy』を聴き終えたときにしみじみと「ああ……ロックバンドのCD聴いたわ」と心が満たされる感覚があって。

デストロイはるきち(Vo/Gt) わあ、うれしい。

加納靖識(Gt) それはうれしいですね。

――音楽性的には初期のArctic MonkeysやFranz Ferdinand、Blood Red Shoesといった、2000年代後半のオルタナティブロックやUKのグランジ/ガレージの系譜を感じました。

16ビートはやお(Dr) たしかに【Fire】のキメとか、Blood Red Shoesっぽさありますよね。

はるきち 僕やはやおくん、マイケル(THEドリーム)はそのへんど真ん中ですね。加納くんはもうちょっと古いロックが好きかな?

加納 Red Hot Chili Peppersかなあ。John Fruscianteがめちゃくちゃ好きだから。【Revolutionary】とかはその影響がもろに出てる(笑)。あの曲を録ってるときにレッチリにJohnが帰ってくるのを知って、それっぽくしてみようかな~って。最初に録ったやつはJohnそのまんまだったのでボツにしました(笑)。

はるきち 実際録ったのは、うまい具合にJohnの空気だけ残ったよね。

加納 ぼかした(笑)。影響が見えるのはそれくらいでいいのかなと思いますね。


ガストバーナー / Fire (GAS and BURNER / Fire) 【Official Music Video】

――サウンドもメロディも、メンバーの感性が刺激されたものから生まれていると。

はるきち マイケルがばんばんオケを送ってくれるようになったのも、1回目のスタジオの音源を聴いてインスピレーションを刺激されたからっぽいんですよ。あっという間に5、6曲揃っちゃいました。ただ【Fire】だけはサビが全然思いつかなくて。でも最終的に《Hey you》のところをマイケルが、《全てを燃やす give me fire》のところは僕が考えて、それがうまくハマりましたね。

加納 【Fire】はもともともらったデモよりもBPMが12くらい速くなって死ぬかと思いましたけど(笑)。

はるきち そうだね(笑)。月2回のスタジオでメンバーで音を合わせていって――【パンデミック】はもともとあんなに軽快じゃなくて、もっとファンクなイメージだったんです。でもレコーディングエンジニアの松井さんに「King Crimsonみたいにしたいんです」と相談したら、「オクターブ重ねてみましょう」と提案してもらって、重ねてみたらすっごい迫力出て。松井さんもオルタナ好きだから、いろいろノリノリでやってくれたんだよね。

加納 そのおかげか【パンデミック】はちょっと不思議でだいぶカオスな曲になったよね(笑)。アルバム曲のなかでいちばん好きかもしれない。ギター録りも1日もらって、すげえ楽しかった。レコーディング当日に急遽変更することも多かったですね。ちょっとひやひやしたけど、ちゃんと予定通りの時間内に録り終わりました(笑)。

はるきち 全部自主で動いてるバンドだから、レコーディングも本当は4日間の予定だったのを「なんとか3日間で録り終えましょう」と(笑)。余計な時間を全部削って、みんな集中力をフルに使って録り終えた気がする。そのぶんいろいろ試すこともできたし、妥協なくできたなって。

加納 うんうん。レコーディングしたことでさらに曲がブラッシュアップされたのがうれしかったですね。

【ダーティーダンスホール】MV撮影中の加納靖識、デストロイはるきち

【ダーティーダンスホール】MV撮影中の加納靖識、デストロイはるきち

――「こういうバンドがやりたい」という明確なビジョンがあったというよりは、本当に本能のままに、感性の導かれる方角へひた走っていったんでしょうね。これぞ初期衝動なんだろうなと。

はるきち ほんとそうですね。バンドを10年やってて、初期衝動なんてもう出るわけがないと思ってたんですけど。

加納 ほんとそう。ちゃんと出るんですね。

はるきち ね。みんないい歳なのに(笑)。

加納 僕ら楽器隊が好き勝手にやっても、はるきちさんのボーカルがあればしっかり締まるので、本当にありがたいです。

はるきち わ、褒められた!

辻斬りっちゃん(Ba) それはもちろんそうですよ。ガストバーナーは、はるきちさんのボーカルありきのバンドですから。どんなオケになっても歌とメロディがはるきちさんなのがガストバーナーの良さだと思うんです。

はやお メロディははるきちさんがいちばんこだわってる部分でもあるので、崩さないようにしたいですね。

>> 次頁
全員にとっての自信作が出来上がったことで生まれた「自分たちの音楽は広がってほしい」という気持ち。彼らはどんな心境でこのバンドに身を置いているのだろうか

LINEで送る
Pocket

1 2 3
Tags:,