楽器講師の役目とは? 小田原の音楽文化を支えるブルーピジョン・スタジオのモットー

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◆生徒さんのその時その時の空気を感じることが大事だと思っている

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――染谷さんと鳥居塚さんは、2016年にブルーピジョン・スタジオの講師に誘われてどのように感じましたか?

染谷 声を掛けていただいて二つ返事でお受けしました。小田原の人間ではないので、ここまで通ってくるのもすごく刺激があったんです。普段はすごく賑やかな街で生活しているので、小田原に来るとほっとできるところもあって。小田原とのつながりがなくなっちゃうのは寂しかったので、誘ってもらってうれしかったです。

鳥居塚 声を掛けていただいたのはちょうどammoflightが活動休止した後のサポート業がひと段落した頃――正直この先音楽どうしようかと悩んでいた時期で。だから青柿先生には、音楽ができる機会を与えてもらったという恩があるんです。講師業の経験はそれまでなかったのですが、自分はレッスンを受けていた側だったので、マンツーマンのレッスンがどういうものなのかのイメージはあって。自分ならできるんじゃないかと思って、お受けしましたね。

――楽器を教える面白さとはどういうものでしょう?

青柿 できなかったことができるようになる瞬間を見るときですね。生徒さんと一緒に喜べる瞬間は代えがたいものがあります。あとは音楽を一緒に楽しむ仲間ができること、一緒に音楽の楽しみ方を模索できることも、うれしいし楽しいんですよね。

渡辺 青柿先生の言う通り、できないことができるようになる瞬間が見れたり、大会で賞をもらったという話を聞くと、自分のことよりもうれしく感じます。その人なりに音楽の楽しみ方を見つけていく、その過程に関われることはすごくやりがいがある。自然に強い熱意を持ってやれる仕事ですね。

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染谷 生徒さんも弾けるようになってくると、音楽をさらに好きになっていくんですよね。そしたら生徒さんの練習の熱意も上がってくるし、そうするとこちらも「これはどう?」「あれはどう?」と新しいことを提案できるし、さらに生徒さんが「え、こんなジャンルもあるの?」「こんなこともできるの?」と音楽の深みにはまっていくんです。青柿先生もおっしゃっていたとおり、音楽仲間ができていくのがすごくうれしいんですよね。

鳥居塚 楽器に限らず、続けていくと知識がどんどん増えて、点と点がつながる瞬間があると思うんです。この前生徒さんのそういう瞬間に立ち会えて、そういうときにやっぱり教えるのは楽しいなと感じますね。染谷先生のおっしゃるとおり、どんどん積極的になってくれるので教えがいがあるんです。

――先生のおかげでもっと音楽を好きになる人もいれば、残念ながらその逆も然りというのが難しいところです。

渡辺 やっぱり生徒さんと講師の相性はありますよね。僕自身も相性のいいピアノの先生と出会えなくて、子どもの頃にピアノ教室を転々としていた過去があるのでわかるんです。

青柿 だから講師としては、生徒さんのその時その時の空気を感じ取ることが大事なのかなと思っていて。会話をしたり、弾いている音を聴いたりしながら「こういうことやりたいのかな」や「ちょっと気乗りしてないのかもしれないな」「面白いと思ってくれてるのかもな」と読み取るのを、無意識のうちにやっている気がします。

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サブのレッスンルーム

染谷 いろんな生徒さんがいるので、こちらからいろいろとアンテナを張るのが大事だと思っていますね。その人に合わせて「じゃあこういう曲をやってみませんか?」と提案したり、以前教えたことのある方と似たタイプの生徒さんだなと思ったら、過去の経験を活かすこともあります。

鳥居塚 青柿先生や染谷先生がおっしゃるように、本当にいろんな生徒さんがいるんです。自分から能動的にこういうことがやりたいと言ってくれる人もいれば、「このレッスンを受ければすぐできる」と考えている人もいるので。

――与えられた課題をこなしていく、完全に先生頼りパターンというか。

鳥居塚 僕はうまくなりたい一心でレッスンを受けていたタイプだったので、そういう人にどうやってアプローチしていけばいいのかは結構悩みましたね。最初から「これはできません」「あれはできません」ばかり言われてしまうこともあるんですけど、最初からできていたら誰でもプロになれてしまうので(笑)。楽器はそんなに簡単ではないし、だから面白いし、できるようになるともっと面白いんです。そういうことをレッスンの中でも伝えていければと思っています。

渡辺 最初から自分のやりたいことがはっきりしてる生徒さんもいれば、自分が今どこに立っていて、どこに向かって歩いているのかわからない段階の生徒さんもいるんです。だから最初のうちはこちらからお手本や答えを用意していくようにしていて。そうするとだんだん生徒さんが自分の意志で目標を作るようになるんです。最初のうちはエスコートして、だんだん後ろに回って、最終的にはその背中を押すように、お手伝いをしてあげることを心掛けていて。

――補助輪からスタートして、少しずつ手をはずしていく自転車の練習のような。

青柿 うん、近いと思います。

鳥居塚 レッスンを受ける際は緊張していることが多いと思うんです。でもリラックスしたほうが生徒さんもちゃんと自分の気持ちを伝えられるし、講師と意思疎通できたほうがレッスンの時間を有意義に使っていただけると思っていて。貴重な時間を使って来てもらうので、何かしら持ち帰ってもらえるように努めていますね。

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――わたしは家庭教師をしていたときに、教えることで自分が成長できると感じる場面が多かったのですが、皆さんはいかがでしょうか。

染谷 生徒さんから教えてもらうことはたくさんありますね。僕はクラシックギター、エレキ、アコギ、ウクレレなど、いろんな楽器といろんなジャンルを教えているので、生徒さんの弾けるようになりたい楽曲も多種多様なんです。だからそれをきっかけに僕も新しい音楽に出会えるし、知識が増えていくんですよね。そうすると自ずと表現の幅も広がっていくんです。

青柿 「なぜこの生徒さんはこれができないんだろう」と自分との違いを考えていくと、「自分は無意識のうちにこういう動きをしていたんだな」みたいな発見があって、より上手にその動きを扱えるようになるんです。何かを教えるためには深い理解が必要だとはすごく思います。自分の音楽力が上がるのを感じますね。

渡辺 同じことを教えるにしても、生徒さんによって違う言い方をしたほうがいい場合があるんですよね。たとえば「力を抜いてみて」で伝わる生徒さんもいれば、「一旦マックスで力を入れてみて。じゃあその逆で一気に力を抜いてみて」とひとつ経由することで伝わる生徒さんもいる。その説明の仕方の選択肢が増えてくると、自分の能力、知識、技術が強化されていく感覚があります。だからひとつの事実に対してのアプローチの仕方が自分の中で増えていくんですよね。

鳥居塚 楽器に対する向き合い方には、その人の生き方のクセや人間性が出てくるなと感じていて。それを踏まえながら、どういう練習をしたら上達するんだろう? そのために自分はどういうアプローチをしていったらいいんだろう? と日々試行錯誤していますね。それが僕の成長にもつながっています。生徒さんと一緒に成長できていけたらと思っていますね。

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