小林祐介に訊く、 THE NOVEMBERS結成10周年のターニングポイント
小林祐介に訊く、
THE NOVEMBERS結成10周年のターニングポイント
THE NOVEMBERS
小林 祐介(Vo/Gt)
取材・文:沖 さやこ
撮影:溝口 裕也
協力:LIVERALLY
独立から2年、THE NOVEMBERSの活動は日に日にクリエイティヴになっていく。これまでも観る環境によって異なる色が映し出されるMVや、自作ジャケットをネットで制作できるツールの公開など、作品を楽しませるために様々なアイディアで我々リスナーを楽しませてきた彼ら。2015年はこれまで以上に音楽的充実が非常に目につく。まずBOOM BOOM SATELLITESやsukekiyo、envy、downyなど国内外問わず確固たるポリシーを持ったバンドとの競演を果たしていること。そしてメンバーそれぞれが他アーティストのサポートへの参加を行っていること。THE NOVEMBERS以外での音楽活動のフィードバックが実現した第1段作品がこの『Elegance』というEPだ。JAPANや一風堂で活動し、BLANKEY JET CITYやGLAYなど様々なアーティストの作品をプロデュースしてきた土屋昌巳をプロデューサーに迎えた制作は、バンドとしてもいち個人としてもひとつのターニングポイントだったと、フロントマンの小林祐介は語る。『Elegance』という背景を、彼の心情や頭脳から探った。
THE NOVEMBERS
2005年結成のオルタナティヴロックバンド。2007年にUK PROJECTより1st EP『THE NOVEMBERS』でデビュー。2013年10月からは自主レーベル「MERZ」を立ち上げ、 2014年には「FUJI ROCK FESTIVAL」 のRED MARQUEEに出演。海外ミュージシャンとの共演も増え、TELEVISION,NO AGE,BO NINGEN,Wild Nothing,Thee Oh Sees,Dot Hacker,ASTROBRIGHT等とも共演。小林祐介(Vo/Gt)はソロプロジェクト「Pale im Pelz」や 、CHARA,yukihiro(L’Arc~en~Ciel),Die(DIR EN GREY)のサポート、浅井健一と有松益男(Back Drop Bomb)とのROMEO`s bloodでも活動。ケンゴマツモト(Gt)は、園子温のポエトリーリーディングセッションや映画「ラブ&ピース」にも出演。高松浩史(Ba)はLillies and Remainsのサポート、吉木諒祐(Dr)はYEN TOWN BANDやトクマルシューゴ率いるGellersのサポートなども行う。2015年4月に新木場STUDIO COASTでのワンマンの模様を収めた初の映像作品「”TOUR Romancé” LIVE AT STUDIO COAST」をリリース。
(オフィシャルサイト/Twitter/Facebook)
イメージを具現化する作業において、不必要なものは削ぎ落とされていく
――THE NOVEMBERSは穏やかでやわらかい音、激しくて攻撃的な音、どちらも鳴らせるバンドであり、そのどちらもがTHE NOVEMBERSの持つカラーだと思います。独立なさってからの2作品である『zeitgeist』と『Rhapsody in beauty』はその対極性を突き詰めたものだと感じましたが、新作『Elegance』は穏やかな側面にフィーチャーした、コンセプチュアルな作品だと思いました。
いままでの作品もコンセプチュアルなものではあるんですけど、このEPはコンセプトがわかりやすいのかもしれませんね。それは恐らく、土屋昌巳さんに関わってもらったことで実現できたことのひとつで、デザイン、構築された美しさ、洗練……そういうことだと思うんです。最初からタイトル通り「エレガントなものを作りたい」と思っていて。心で感じてもらいたいから、説明したくなるところを敢えて説明しないとか……それが自分にとっては粋なものというか。そういう「引き算」をして作っていく。そういうものを作りたいイメージだったので、ポップのなかでも優雅な、気品があるようなものを作りたいなと思いました。だから、もしかしたら霧が晴れたような視界の清々しさが、作品にあるのかもしれないですね。
――「引き算」を導いてくれたのは土屋さんだった。
もともと僕たちも「引き算をしたいな」という気持ちはあったんです。でもいままでは「どういうときにどういうものを敢えて引くことによって、どんな美しさが表れるんだろう?」と、どうしたらいいかわからなくて。やっぱり「いいな」と思ったフレーズを付け足していくと、思い入れも湧いてきてしまうし、足し算ばっかりになっていっちゃう。そういう曲作りをたくさんしてきたので、自分たちのまだ挑戦していないところが、まさしくその「引き算」「気品」「優雅」だったんですよね。
――“Elegance”というテーマは、THE NOVEMBERSの表現において根源的なものだと思いますが、10年目にして辿り着いた感覚もあります。成熟と核心的な部分が同居しているような。
……「曲が求めている音」ってあるじゃないですか。今までもそういうものは意識してきたし、これが正解だと思うかたちで作品や曲を残してきたんですけど、土屋さんが持っているギターや機材を貸してくれて、一緒に音作りをしてくれたんです。「こんなイメージで、こんなプレイをしたい」という僕らの意見で、彼が音をひとつひとつ作ってくれて。それが、ものすごくいい音だったんですよね。聴いた瞬間にいい音だと思ったし、改めて録音されたものを聴いてもいい音だと感動することが多くて。そういう体験をすることが「引き算」や「ミニマル」なものを作るモチベーションにつながっていったんですよね。
――「とてもいい音」を生かすための「引き算」だったんですね。
これまではこれまでなりにいい音で、かっこいい、素敵な音で録ってたんですけど、それはどんどん付け足して美しく変化させて昇華していく方法が多かったんですけど。今回は録れたものがすごく美しくて、純粋というか……ミックスする前の音がこんなに美しいなんて、という感動があったんです。だから1プレイ1プレイごとに愛情が湧いてきて「せっかくこんないい音が録れたのに、別の音を足してデコレーションしてしまうのは勿体ないな」と思えて。だからそのときに初めて「あ、引き算ってこういうことかもしれないな」と思ったんです。
――新たな方法が、もともとTHE NOVEMBERSが目指していた音楽を実現させた。
土屋さんが言っていた言葉でとても印象的だったのが「音楽は彫刻と同じだ」ということで。彫刻は木でも石でも、あらかじめ存在するかたまりから生まれるものなんですよね。それを削っていくことによって姿が浮かび上がってくる。仏像を作ることを「石のなかから仏様を取り出す作業だ」と言ったりもするじゃないですか。それと同じで、「あらかじめあるものを作っていくんだよ」と言っていたんですよね。実験中に偶然生まれるものも勿論あるし、肉付けしていくことで像を作っていくのも正しいやり方ではあると思うんですけど、本当に頭のなかにイメージができていて、それを具現化する作業だったら、不必要なものは削ぎ落とされていくんだなって。
――ああ、なるほど。
これを削ぎ落としていいのかな……と考えるのはミュージシャンのエゴだったり、それ以外にも理由はあって。削ぎ落とすということは、むき出しになることだから、「恐怖」だとも思うんですよね。でも寧ろむき出しになっていけばいくほど、すごく美しいと思えるような導き方を昌巳さんがしてくださったので。それは今後の作曲やいろんなことに影響が出るんじゃないかな……と思ってるところですね。土屋さんには本当に感謝しています。
――10年という経験を重ねたタイミングで、そういう新しい感覚を得られるのは、バンドにとっても小林さんにとってもフレッシュで、いい経験だったのでは。
でもこの事実は……「自分たちは10年掛からないと気付けなかった」「しかもその気付きのきっかけが他者だった」とも言えるんですよね。音楽家が音を大事にするのは当たり前のことなのに。練習でもレコーディングでも、人が見ていても見てなくても、鳴らした音と向き合って、自分自身が感動したり、「綺麗な音だな」とうれしくなれるか、そういうことにもっと執着を持てたはずなのに。……だからもっと音楽に対して誠実でいないといけないなと思いました。いまは作曲のなかでも一音一音大事にする習慣がついたような気がします。
>>何も考えていないことが、いちばん音楽を美しく表現できる状況になれたらいい