アーティストのTV露出と日本の音楽文化の活性 ~ONE TONGUE SUMMIT #3
◆影響力を取り戻せ! 過渡期の今こそ大きな仕掛けを
沖 まだ今年の紅白の出演者は発表されていませんが、ふくさんは最近の紅白はどう見ていますか?
ふく 紅白はある意味なによりフェスっぽいと思うんですよね。最近のフェス乱発で「どのフェス行っても同じ顔触れ」なんて言われていますが、J-POPあり、バンドあり、アイドルあり、演歌あり、それらのコラボありなんて、完全にこれ本来の“フェスティバル”=お祭りじゃないですか。特にここ数年の紅白はギミックや事件満載で、僕はその辺を楽しんでいるんですが、大島優子のAKB卒業の場になったり、ゴールデンボンバーは思いっきり悪ふざけしたり、ももクロは脱退したメンバーに曲を通じてメッセージを送ったり、中森明菜は海外から生中継でなぜか新曲を歌ったり、いじりたくなるトピックがたくさんあるんですよ。
沖 紅白のフェス性、本当にそうですね。ゴールデンボンバーの悪ふざけは定番化していますし、その「今年もあれが見られるかも」という期待がはたらくのも面白さのひとつです。
ふく しかも今年の司会は綾瀬はるかに決定なんてニュースもありますし、2013年のような迷司会が期待できます。吉高由里子の司会もNHK然としてなくて最高でしたね。こういった番組にサカナクションやゲス、セカオワみたいな狙いのあるバンドが出ていくのは必然ですよね。今アラサーぐらいのミュージシャンは’90年代の音楽が一番売れていた時期に、月曜はHEY×3、火曜はうたばん、水曜は速報!歌の大辞テン、金曜はMステ、土曜は夜もヒッパレ、他にもポップジャムやCDTVなど、毎日のように音楽番組があった世代なんですよね。その人たちがシーンの中核にいる現代だからこそ、最近彼らのテレビ露出が増えているんでしょう。
沖 全部見てました!(笑) アラサー世代のなかでも特に1980~1986年生まれがそうかと。潜在的にお茶の間リスナーとしての感覚を持ってる人たちなんですよね。まだ「洋楽聴いてる俺かっこいい」理論が強かった時代でもあるし(笑)、おまけにCDがバカ売れしてる時代に思春期を過ごしているのもあっていろんな音楽を吸収しているというのも強みだと思います。TV番組の制作側にも、プロモーション展開を考えるレーベルサイドにも我々世代が増えているんだろうなとも思います。だから最近地上波の音楽番組が充実してきてるなと思っていて。『MUSIC JAPAN』や『音流』、『バズリズム』、『ライブB♪』などなど……。深夜であれど増えてきてるのは非常にうれしいなと思います。
ふく 僕らが学生の頃の音楽番組は、やはりゴールデンの影響力が大きかったと思います。特に当時は音楽番組から発掘される才能も多かったと思うんですよ。印象に残っているのは、たとえばHEY×3はT.M.Revolution登場時ダウンタウンがいじりまくっていましたし、それに負けじと関西のノリで応戦するTMの姿がウケて、どんどん人気者になっていきました。HEY×3はアムラー全盛期の安室奈美恵もしょっちゅう出ていました。彼女はあの番組の最多出演者で、気心の知れたダウンタウンとのやり取りは観ていてとても面白かったです。浜ちゃんと小室哲哉によるユニットの『WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント』も誕生のきっかけはこの番組での小室さんへの「なにか曲書いてよ」みたいな話でした。
沖 うんうん、そうでしたね。TVで放映されていたアーティストたちの人となりから音楽がヒットすることが多かった。いまも続くGacktの人気はそこだと思います。
ふく 他にも、これはとても鮮明に記憶しているのですが、『アポロ』でデビューしたポルノグラフィティがMステの若手紹介みたいなコーナーに出て、それをきっかけにオリコン初登場80位台ぐらいからどんどんセールスが上がっていったんです。当時学校でも「昨日Mステに出てたポルノグラフィティてなんか良かったね」なんて給食の時間に話したもんですが、そういう現象が音楽番組から生まれる時代でした。老舗のMステはともかく、他の音楽番組にここまでの影響力は正直今ないと思います。そんな中でも『Momm!』や『バズリズム』など新しい音楽番組は出てきますし、なにか面白いこと、新しいことやろうという気概も感じられます。
ポルノグラフィティ 『アポロ』(“OPEN MUSIC CABINET”LIVE IN SAITAMA SUPER ARENA 2007″)
沖 いまの地上波の音楽番組はやはりゴールデン進出は難しいようで深夜枠ばかりですが、そのTV番組たちがでっかいイヴェントを打っているところも特徴的かと思います。番組は終了してしまいましたがLIVE MONSTERは幕張メッセ、現在深夜で1時間という大ボリュームで放送中のバズリズムも横浜アリーナ。どちらもジャンルを取っ払ったぶっ飛んだ痛快なブッキングなんですよね。そういうことができるのもTVの力だと思います。
ふく 番組発でイベントやるのもいいのですが、できればぜひそれをテレビで生中継してほしいんですよね。「(国民的アーティストによる)ライヴ地上波生中継」は、音楽やっぱり良いと思わせる起爆剤になると思うんだけどなぁと。金や権利の問題、大人の事情でなかなか実現できないと思いますが、SMAPが生放送で約50分かけて全シングルのメドレーやったり、番組の企画でもいいのでそういう試みが観る人の胸を打つと思います。
沖 ふくさん前もそのお話をしてましたよね。何かいい方法ありますか?
ふく たとえばあるフェスやライヴの生中継をネットでして、時間制限ありでニコ生のように強制退場させられちゃうんですけど、あるハッシュタグを付けてツイートするたびにまた10分間ぐらい視聴できる「Twitter TV」とかどうですかね? 実際にツイートするのでネットでバズりやすいし、主催者側、出演者側にもメリットがありそうです。
沖 面白そう!! やっぱりTVにしても雑誌にしてもですが、とにかくいろんなものがインターネットの普及によって変わったと思うのでそこと仲良くするしかないなあと思います。