ツアーファイナルで証明された、THE NOVEMBERSの「いま」が輝かしい理由――2017.5.27 渋谷WWW X公演レポート
THE NOVEMBERS
TOUR「美しい日」
2017.5.27 at 渋谷WWW X
どんな色をも美しく映し出す、輝ける漆黒の饗宴
取材・文 柴 萌子
撮影 Yusuke Yamatani
昨年バンド結成11周年を迎え、11月11日に新木場STUDIO COASTで行われたワンマンライヴで功を奏したTHE NOVEMBERSが、12年目一発目のツアー「美しい日」を全国13箇所にて開催。各地にゲストを招き、東京・WWWXで行われた5月26日のセミファイナルでは彼らと旧知の仲であるblgtzを、27日のツアーファイナルではrokapenisをVJに迎えた。また1日目は、blgtzにとって4年半ぶりのステージで、THE NOVEMBERSのVo.&Gt.小林祐介のオファーもあり、メンバーもファンも待ちわびていた5年ぶりの共演が実現。2days公演ゆえ「セットリストや趣向の異なるライヴにする」と彼らが事前にTwitterで公言していたとおり、2013年の独立以降、より際立っていくバンドの多面性を窺い知れた。ツアーファイナル、スモークが立ちこめるなか「A Beautiful Day」とツアータイトルの映し出されたスクリーンをバックにメンバーが颯爽と登場する。青い照明と、水面や木々の浮かぶスクリーンが彼らを包み込みながら、鮮烈な轟音を浴びせるポップナンバー【美しい火】【Rhapsody in Beauty】を届けると、【1000年】【Xeno】と続き、荒々しいベースと鋭利なギターリフ、ノイジーなスクリーンに面食らう。ステージに食い入るフロアの一糸乱れぬ緊張感と静寂を【We】【Sky Crawlers】が打ちやぶり、緑の照明のなかで熱量が黙々とこみ上がってきた。
ことにニューウェーヴ感を全面に押し出す無機質な【Sky Crawlers】は、作曲者である小林が映画『スカイ・クロラ』(押井守監督、2008年)に影響を受けて作曲した楽曲。曲調に呼応するようにビルや廃墟がスクリーンに映し出され、その世界観を見事に表象する演出だ。身体中が轟音に取り囲まれ身動きできなくなる感覚を振りかざす【Gilmore guilt more】では、うずくまりながらマイクを突き上げる小林の咆哮に度肝を抜かれた。それはただ闇雲にがなり立てる「シャウト」ではなく、身体の奥底から這い上がる野性的な「咆哮」だ。1日目でも彼の咆哮は際立っていたが、特に【時間さえも年老いて】の終盤、「アンファンテリブル」と繰り返し叫ぶ姿は鬼気迫りながらも、子どものような健気ささえも見受けられた。あまりにも純度の高い健気さに触れてしまうと時として畏怖を感じる。それにもかかわらず、観客はそれをもっと知りたくなるがために振り回されてしまう。
彼らの初期楽曲であるとともに最近のライヴで多く演奏される【こわれる】は、「感性が剥がれている」というリリックさながら感性の入り込む余地さえも許さない完膚なきまでの緊張感でエモーショナルにフロアを打ちつける。そして、スモーキーな漆黒の轟音を包み隠さずさらけ出す【黒い虹】は、目の覚める照明で、それとともに拳が突き上がり揺れるフロアは天啓にうたれたかのようだった。血湧き肉躍る高揚感のまま、【Hallelujah】で終幕を飾る。夕焼けと海の浮かぶスクリーン、吉木諒祐のバスドラムの強いキック、Ba.高松浩史は身体を小林のほうへ思い切り向けながらコーラスを、Gt.ケンゴマツモトは虎視眈々とフロアを見つめ、小林は「そうさ全部燃やして」と力をこめて歌う−−−その姿に快哉を叫びたくなった。
1日目に小林はゲストのblgtzについて「10代の最後に大きな影響を受けたバンドで、田村(昭太)さんがいなかったら音楽を続けていなかったかもしれません。田村さんの佇まいは美しくて、僕らはそれにずっと憧れていました」と述べていたが、【Hallelujah】でステージに佇む彼らも田村のそれに負けず劣らず凛々しかった。田村は白いシャツを、THE NOVEMBERSは黒に身を包んでいたが、両者はともに色とりどりの照明に溶け込んでいるようだった。
私が思うに、THE NOVEMBERSの白眉は、理知的でありながらそれと対極にある野性も表現できるところにある。その2つが従来作よりも顕著に表れながらバランスもとれている『Hallelujah』は大作になったし、だからこそ彼ら自身も「今がいちばんいい」と自負しているのだろう。しかし、突き抜ける明るさのある当作の裏側で彼らは大きな壁にぶち当たったという。「何もない」という絶望感を乗り越えたすえに手探りで独自の道を切り拓いたからこそ、『Hallelujah』には強さと包容力が生まれ、何よりも楽曲に深い説得力が宿ったのではないだろうか。また、2日目のMCで小林は「まだ知らない未来の美しさを信じてここにきてくれてありがとうございます。僕はそれを誇りに思います」と深々と謝辞を述べたが、彼らのひたむきで謙虚な姿勢そのものが伝わる一言だった。そんな彼らに私はとても憧れる。
終演後、Erik Satieの楽曲が流れるなかスクリーンに「Before Today」と映し出され、ライヴハウスを出る際にその言葉が今秋リリース予定のベストアルバムのタイトルだとわかった。アルバムごとに確固たるメッセージを込めてきたTHE NOVEMBERSがベストアルバムをリリースするなんて予想外だ。彼らのこれまでの楽曲がどのようなコンセプトのもとで1枚のアルバムとして総括されるのだろうか。その予想図をファンたちはすでに頭のなかで思い描きはじめているに違いない。ライヴを重ねるごとに「美しい」のボルテージを上げていく彼らだからこそ、ベストアルバムに収録される過去楽曲の響き方も変わるのではないだろうか。「まだまだこれから」という彼らの楽曲【GIFT】のリリックどおり、未来を信じ祈っていこうとバンドとファンが約束を交わしたツアーファイナルだったと思う。「いいから俺たちについて来い」と言わんばかりの漢気に溢れた今のTHE NOVEMBERSは最高にイカしている。
◆2017.5.27 at SHIBUYA WWW X SET LIST
01 美しい火
02 Rhapsody in beauty
03 1000年
04 Xeno
05 永遠の複製
06 愛はなけなし
07 We
08 sky crawlers
09 Gilmore guilt more
10 小声は此岸に響いて
11 あなたを愛したい
12 Romancé
13 鉄の夢
14 Blood Music.1985
15 こわれる
16 黒い虹
17 Hallelujah
◆Release Information
ベストアルバム『Before Today』
2017.9.13 on sale
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◆More Information
THE NOVEMBERS official website