黒猫チェルシー休止から1年半――澤 竜次が開拓するミュージシャンとしての居場所
◆過去を恥じないようにしたい
――FAIRY BRENDAの初の全国流通盤『Honey Trip』には、結成当初の曲も収録されているのでしょうか?
【プール】や【Paper Moon】は6年前に作った曲で、【Restaurant】はもともと2010年くらいに、がっちゃんとちょっとやってたユニットの曲なので、もう10年くらい前の曲で(笑)。
――10年前の曲をバンドに持っていくの、けっこう勇気が必要そうですが。
レーベルを立ち上げて「さて、自分はここからどう音楽で生き延びていこう?」と考えたとき、まず過去のものを根こそぎ集めてみようと思ったんです。もちろん過去の曲は「今やったらもっとこうするんやけどな」と思うこともあるんですけど、それも含めて自分が作ったものだし、個人の弾き語りでは高校生の時に作った曲を演奏したりして――恥ずかしいけど、それも含めて全部自分やから、恥じないようにしたい。過去のものを根こそぎ集めて、これからの自分を形成していこうというモードになっているところはありますね。
――さきほどおっしゃっていた4バンドとサポートでの活動で作られる「現在の生活」という横軸だけでなく、「人生」という縦軸も存在しているということですね。
年上の方々がおっしゃるように、あっという間に時間は過ぎていくんやろな……という気配を感じてるんです(笑)。今年30になるので――もちろん音楽に年齢は関係ないですけど、人間として生きているうえでは節目にもなる年齢だとは思うので。西山くんが29で店を始めたのも、「これからどう生きていくか」という表明やとも思うんです。3人ともFAIRY BRENDAという場所でしかできないこと、感じられないことがあったから続けてこれたと思うし、『Honey Trip』のレコーディングをしたことで、バンドとしての考え方ができるようになったんです。お互いのプレイを楽しむだけでなく、バンドの見え方や見せ方をより話し合うようになりました。
――澤さんが昔iPhoneで撮った写真を西山さんがデザイン加工したジャケットもいいですよね。作品をかたちとして作り上げていくことも、結束が強まっていった理由のひとつでしょうか?
自分がお世話になった媒体はCDですし、CDショップの人たちにもお世話になってきたので、まずレーベルの第1弾作品はCDとして残したくて。この先もメディアはどんどん移り変わって、どんどん実態はなくなっていくでしょうけど、おそらく実態のあるものだと、何十年か経ってどこか部屋の隅から出てきたりすると思うんですよね。かたちのあるものでないと発掘されないと思うんです。自分たちも「これは自主レーベルでいちばん最初に出したアルバムなんだ」とこの先語れますしね。
FAIRY BRENDA “Honey Trip”スタジオライブダイジェスト
――理想の媒体で作られたバンドにとって初の正式音源。それをこのタイミングでリリースできるのは、とてもバンドにとってプラスだと思います。
結果論にはなりますけど、これまでの活動を注ぎ込めたものになりましたし、それに相応しい内容になったと思います。『Honey Trip』はレコーディングも1年くらいかけて。録音を終えたあとでも、自分の家の近くのスタジオでマイクを立てて、GarageBandに録り直して、それをエンジニアさんに送ってミックスしてもらったりしたんですよね。だから1フレーズ録るのにもめちゃくちゃ時間を掛けてるんです。その甲斐があるいいアルバムができましたし、自信にもなりましたね。達成感もあると同時に、次にやりたいことも浮かんできました。
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「黒猫チェルシーが休止したのは良かったことだと思う」と語る澤
彼が見つめる「この先」の景色とは